アインシュタインが日本に来日したのは1922年(大正十一年)の秋です。

日本へ来る船上で「ノーベル物理学賞」の受賞の報せを聞き、喜びの中の来日でした。

かねてから日本の仏教に関心を持っていたという博士は、仏教について知りたいということで、真宗大谷派の僧侶、近角常観(ちかずみ じょうかん)という先生と対談されたことがありました。

 

 その対談の中で、アインシュタインが

 「仏さまとはどんなお方ですか?」

と尋ねられたそうです。

 そこで近角先生は、姥捨て山の話をしました。

 日本が、まだ貧しかった昔、信州の山村では、一定の年齢に達した年寄りは、口減らしのために山に捨てられるという風習がありました。

いくら孝行息子でも、村の掟(おきて)ですから背くわけにはいきません。

背けば家族は村にいられなくなります。

 

 ある息子が村の掟に従って、母親を背負って、姥捨山へ入っていく…

 

ところが、その道すがら、背中に負われた母親が、しきりに木の枝を折っては道に捨てているのです。

 

これを見た息子は、

 

 「ひょっとして、母親は、家に戻ってくる目印のつもりで枝をおとしているのではないか?」と疑います…

 

どのくらい歩いたでしょうか、

とうとう捨て場所と思(おぼ)しき所に着きました。 息子は母親を背中から降ろし…

「おっ母さん、すまんなぁ…

でも、これが村の掟だから…

恨まんでくれ…

じゃぁ、俺はもうこれで行くからな!」

と別れを告げると…

 

老いた母親は息子に…

 

 「お前とも、これが一生のお別れじゃ。

気を付けて帰(けえ)って行けよ。

だいぶ奥まで来ちまったから、

お前が帰り道に迷わんように、

枝を折って目印つけといたで、

そいつを頼りに帰(けえ)ってけ

家ん中、塩梅ようやれや…」

 

 そう言って、母親は息子に手を合わせるのです。

 

 そんな母親の姿を見た息子は、

泣き崩れました。

…自分を捨てようとしている俺を、

おっ母さんは、恨みもせずに

逆に自分のことを案じていて下さる…

 

こんな母をどうして捨てられようか!

息子は思わず、草むらに両手を着いて

 

 「おっ母さん許してくれ!

俺が間違っとった

親を捨てるなんて俺にはできねぇ」

そう言って、また、母を背負って

今来た道を戻っていったのです。

 

 「奥山に

枝(えだ)折(お)る栞(しおり)は

誰(た)がためぞ

親を捨てんと

いそぐ子のため」

 

 近角先生はアインシュタインに、

 

 「こういう母親の心こそ、仏さまのお心であります」と言ったそうです。

  年を喰った母親は、そのまま捨てておかれたら、もうその日の晩に凍え死ぬか、狼のえさになるか。そうでなくてもいずれ餓死するでしょう。

 

でも、そんな中でも、母親は、ひたすら我が子を心配しているのです。

 

 母は、自分を捨てようとしている我が子でも見捨てることが出来ないのです。

 

自分を殺そうとしている者を

なんとか生かそうとするのです。

これが仏さまのお心なのですと言った。

 

  涙を堪(こら)えて、話を聞いていたアインシュタインは、

 

 「日本人というのは、こんな温かくて、なおかつ深い信仰を持っていたとは…

 日本に来てこんな素晴らしい教えに出あえたということは、私にとって、とても幸せなことです。」 と語ったそうです。

 

 この話の大事なところは、

親心という真実に出遭って、

息子が自分の不実さに気が付いた。

ということです。

そして、それが深い慚愧となった。

「すまん!」と頭が下がった。

 

十憶の人に 

十憶の母あれど 

わが母に 

まさる母あらめやも(暁鳥敏)

 

 

美しい心を 愛する人あるも 

醜(みにく)い心を慈(いつく)しむは、

ただ母と仏のみ

 

 ここで語られる母親と息子の関係は、仏と私の関係を表しています。

 阿弥陀仏は、どんな者も救わずにはおかないとおっしゃる。

 

自分に背く者、逆らう者さえも救おうという…それが仏心です。

如来の大悲…大慈悲心です。

 

  如来の大悲に出会ったとき、私たちは仏のお心に背きっぱなしの愚かな自分に気づきます。

 

 そして、「すまん!」と頭が下がる…

それが南無の心です。


今後の行事

日/曜日 時間 内容 備考
2024年(令和6年)
毎月 第1(日) 午前6時半 おはよう講座 毎月 第1 日曜日
1月 第2 日曜日
中止第3(木) 午前10時~午後3時半 福遊会 毎月 第3 木曜日
4月 12日(金) 午後1時 永代経・蓮如忌 法話:小谷香示 師
30日(火) 午前10時/午後7時半 親鸞教室  
5月 12日(日) 午後1時 定例・奉賛会・宗祖誕生会 法話:戸田 恵信 師
27日(月) 午前10時/午後7時半 親鸞教室  
6月 12日(水) 午後1時 前々住職御命日 法話:戸田 栄信 師
21日(金) 午前10時/午後7時半 親鸞教室  
7月 11日(木) 午後1時 お盆会 法話:戸松 憲仁 住職
12日(金) 午後1時 お盆会 法話:藤井 義尚 師
29日(月) 午前10時/午後7時半 親鸞教室  
8月 12日(月) 午後1時 盂蘭盆会 法話:青木 馨 師
13日(火) 午後7時 納骨堂 お盆会 寺内勤め
14日(水) 午後7時 納骨堂 お盆会 寺内勤め
9月 12日(木) 午後1時 彼岸会 法話:梛野 明仁 師
10月 12日(土) 午前10時 秋の永代経 法話:戸松 憲仁 住職
午後1時 前住職ご命日 落語:三遊亭兼好
俗曲:桧山うめ吉
11月 12日(火) 午後1時 開基・中興法要・相続講 法話:未定
12月 12日(木) 午後1時 成道会(お釈迦様の命日) 法話:織田 慶雄 師
2025年(令和7年)
1月 12日(日) 午後1時 修正会 奉讃会 法話:堀田 護 師
2月 11日(火) 午後2時 こどもほうおんこう「人形劇」 とんがらし
12日(水) 午後1時 報恩講 法話:安藤 伝融 師
13日(木) 午後1時 報恩講 法話:堀田 護 師
3月 12日(水) 午後1時 聖徳 太子会 奉讃会 法話:伊奈 祐諦 師